『博士の異常な愛情』


博士の異常な愛情
 タイトルだけは知っているのだけれど、実際には観たことがない、そんな映画のDVDを借りてきては観ている。『2001年宇宙の旅』で有名なスタンリー・キューブリック監督の1964年の作品。キューブリック監督最後のモノクロ作品だという。タイトルだけは知っていると書いたが、『博士の異常な愛情』は略称で、本当は『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb)という長い長いタイトルだということは知らなかった。

 飛行中の爆撃機が空中で燃料補給を受ける映像でこの映画は始まる。東西冷戦の時代、アメリカ軍の一将軍が暴走し、独断でソ連への核攻撃指令を出してしまう。指令を受けた爆撃機の乗組員たち、最初は何かの間違いでは?と疑うが、本当の命令であることが分かると俄然やる気を出し、ソ連の領土深く進攻していく。ペンタゴンでは大統領を中心に緊急会議が始まる。大統領の質問に面々が答える。どうやら爆撃機を引き返させるのはもう不可能なようだ。このままでは核戦争が始まってしまう。政府高官、超鷹派の将軍、招集されたソ連大使、そして大統領科学顧問であるストレンジラヴ博士。この面々が全人類の命運を握っているのだ・・・。

 面白かった!略称のタイトルからは想像もつかなかったが、この映画は強烈なブラック・コメディーだ。暴走した将軍の妄想は言うまでもないが、会議室の面々の俗物っぷりもすごい。そしてストレンジラヴ博士の特異なキャラクター。東西冷戦の危うさをシニカルに描いている。東西冷戦は過去のものとなったが、地球上に火種はいくらでもある。当時は想像もできなかった、地球温暖化新型インフルエンザなどの新しい問題も出てきた。キューブリック監督が蘇ったら、もっとブラックな21世紀バージョンを作ってくれるかもしれない。