『地震がくるといいながら高層ビルを建てる日本』


 東京生まれでスウェーデン人のご主人を持つデュラン・れい子の2作目。スウェーデン、オランダ、ブラジル、フランスで主婦として生活し、版画家として活動する中でいやおうなしに直面する外国と日本とのギャップ、考え方や価値観の違い。その数々を楽しく紹介してくれる。

 「西洋人は自然を克服しようとし、日本人は自然と共存しようとする」とはよく言われることだ。残念ながら日本以外で暮らしたことがなく、日々付き合っているのも日本人ばかりなので、このことを実際に経験したことは今まで一度もない。ただ、何となく「そうなんだろうな」と思って納得している。しかし著者は違う。タイトルの『地震がくるといいながら高層ビルを建てる日本』というのは本書の冒頭で、結婚する前のご主人との思い出話として紹介される。詳しくは書かないが、建築技術云々の問題ではない。地震とは縁が切れないこの列島の上にあえて住み続け、おまけに高層ビルをどんどん建てている日本。ご主人にとっては心の底から信じ難いことだったようだ。

 著者はものすごくニュートラルな思想の持ち主だと思う。にわかヨーロッパ人になって「だから日本はダメなんだ」的な軽率発言をするわけでもなく、かといって「やっぱ日本が最高だと思う」と妄信したりもしない。是々非々の姿勢。シルバーシートで寝たふりを決め込む日本の若者に憤るかと思えば、ヨーロッパ流の夫婦はいつも一緒という行動パターンに不自由と不満を感じている。世界初の女流文学である源氏物語を世界に誇り、ヨーロッパの友人達の自分をさらけ出す生き方に共感する。日本の読者を啓蒙する一方、周囲のヨーロッパ人には全日本人を代表して日本を弁護することもあるのだ。ニュートラルな思想と芯のつよさ、そして少女のような感受性を併せもつ人だ。中学や高校時代、こんな先生に教えてもらっていたらもう少しマシな人間になっていたかもしれない。

地震がくるといいながら高層ビルを建てる日本 (講談社+α新書)
作者: デュラン れい子
メーカー/出版社: 講談社
ジャンル: 和書