『汝みずからを笑え』


 土屋賢二は哲学者でお茶の水大の教授。実はこの人の書くエッセイが大好きで、数えてみたらこれで6冊目だった。『われ笑う、ゆえにわれあり』『人間は笑う葦である』『棚から哲学』・・・・タイトルがいかにも哲学の先生っぽくておかしい。

 大学の先生の書いた本なのだが、博識をひけらかすようなところは一切ないし、難しい単語は一切出てこない。「へーそうなんだ!」と驚くこともほとんどない。ないないづくしだ。ついでに言うならば、文章は少しもエラソウでなく親しみやすい。著者自ら「ユーモアエッセイ」と呼んでいる通り、楽しくて笑える、肩のこらない本なのだ。しかしながら、話が論理的でいちいち筋が通っている。思考のフレーミングをものすごく大きくとって、社会的大問題も誰もが悩む日常のアレコレも、どちらも些細なことと思わせるあたりは哲学者ならではだと思う。土屋賢二のエッセイを気に入っている理由だ。読むたびに、頭の良い人の冗談ってのはこういうものなのだなぁとしみじみ思ってしまう。

汝みずからを笑え (文春文庫)
作者: 土屋 賢二
メーカー/出版社: 文藝春秋
ジャンル: 和書