『感染列島』


 今年1月公開の映画、『感染列島』を観た。この映画が公開された頃、「パンデミック」という言葉はまだ聴きなれていなかった。インフルエンザウィルスやその変異についても何も知らなかった。それから数ヵ月後にメキシコで豚由来の新型インフルエンザが発症し世界に広がり、日本でもマスクが品切れになるとは誰が予測しただろうか。

 主演は妻夫木聡と壇れい。二人は何年かぶりに再会した元恋人、市立病院の医師とWHO(世界保健機構)から派遣されたメディカルオフィサーという立場。未知のウィルスの感染が始まった市立病院を舞台に二人は文字通りの死闘を演じることになる。美男美女カップルなのだが出番の大半でマスクやゴーグル、防護服を着用しているのがファンにとっては残念だろう。看護士役の国仲涼子のけなげな献身ぶりと娘への愛情はグッと来るものがあったし、旦那役の爆笑問題田中の優しいお父さんっぷりも良かった。医師役の佐藤浩市の存在感ある演技、患者役の池脇千鶴の微妙な内面表現も捨てがたい。結構重要な役どころにカンニング竹山が起用されているが、不完全燃焼かも。インフルエンザ学者役の藤竜也は渋くて味のある演技を見せてくれたが、エセ関西弁はチョット・・・。感染源と疑われる養鶏業者役の光石研は、心身とも疲れ果てテンパッてしまっている一人の男を地味ながらも好演している。彼の中学生の娘を演じる夏緒は等身大の役柄を鬼気迫る演技で熱演、結構スゴイ。あと、WHOの医師役のダンテ・カーヴァーの姿をソフトバンクのCM以外で初めて見た。

 キャストと役どころを羅列すると分かると思うが、この映画にはいろいろな立場の人達が盛り込まれている。盛り込まれ過ぎとも言える。未知のウィルスのパンデミックはウィルスと人類との戦争だ。国と国との戦争が兵士だけの問題でないのと同様、ウィルスと人類の戦争も医者や学者、政治家だけの問題ではない。その意味で、病院内だけのドラマにしなかったのは正しいと思えるが、ちょっと手を広げすぎて散漫になっちゃった感がある。これはパニック映画?ラブロマンス?家族愛の物語???

 一方、未知のウィルスだろうが、既知のウィルスだろうが、パンデミックと言われる状況となれば、電気水道ガス交通通信などのインフラを維持できなくなる。警察や消防もしかり。早い話、消防士さんも病気になったらお休みするわけだから火事も消せない。都市機能はマヒすると考えなければならない。その意味で本作中での廃墟然とした風景の描写は説得力があるのだが、そのあたりの説明が乏しいので、どこまで観客に伝わったかが疑問だ。

 いろいろ批判してしまったけれど、世間に警鐘を鳴らすという意味で、本作の意図は高く評価したい。ただ、現実が映画に追いつきつつある今となっては、この映画から学べる部分は少なくなってしまった気がするのが残念だ。

感染列島 スタンダード・エディション [DVD]

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