『「モナリザ」の微笑み』


『「モナリザ」の微笑み 顔を美術解剖する』布施英利
 現代の地球上で最も有名な絵画作品は何だろう。全人類へのアンケートは困難だが、恐らくきっとパリのルーブル美術館にあるレオナルド・ダ・ヴィンチモナリザなのではないだろうか。この本はダ・ヴィンチのモナリザの「微笑み」にスポットライトを当て、その秘密に迫る。そのための武器は「解剖学」。

 著者の布施英利は東京藝術大学の准教授で美術解剖学を専門としている。美術解剖学というのは絵画や彫刻などの美術のモチーフとしての「人体」をその内部構造まで踏み込んで理解しようという学問だ。その歴史は古く、他ならぬレオナルド・ダ・ヴィンチもその人生で30回は解剖を行っているという。人の顔や体に宿る美しさや逞しさの根源はその人物の精神や人生にある。しかし一方、人の顔や体に宿る美しさや逞しさはその人物の骨格や筋肉の有りようによって成立する。このことに異論はなかろう。しかし絵画を観る我々は普通そんなことは意識せずに絵画と向き合う。この本は絵画が制作される舞台裏を垣間見させてくれる。

 本書の第一章ではダ・ヴィンチのモナリザの顔を解剖する。文字通り、モナリザの顔をバラバラにしてしまうことによって驚くべき結論に達する。続く第二章ではダ・ヴィンチの「モナリザ」を別の切り口で解剖するとそれはピカソセザンヌレンブラントに分けられるというから驚きだ。さんざんバラバラにした後、著者は第三章で時代を超えた世界のつながりを示す。ギリシア=奈良。何のことかは読んでみてのお楽しみだ。

 こうして書くとかなり盛りだくさんな内容なのだが、順に読んでいくと違和感がない。最初の1ページから最後までを貫いているのは著者のモナリザへの愛。この人、本当に『モナリザ』が大好きなんだろうなと思う。示唆と薀蓄と愛があふれる一冊、面白かった。

「モナリザ」の微笑み (PHP新書)

「モナリザ」の微笑み (PHP新書)