『テンプル騎士団の古文書』

 戦争でアメリカにコテンパンにやられたからだろうか、どうも日本人はキリスト教を否定できないようだ。神道もしくは日式仏教の熱心な信者の中にはキリスト教に対し否定的な人も多いのかもしれない。しかし全体的に見れば日本人はキリスト教に対し無邪気なほど寛容だと思う。教会やクリスマスケーキを「忌々しい異教徒の風習」と言い切る人と会ったことがない。

 著者のレイモンド・クーリーは1960年レバノン生まれ。レバノンを地図で見ると地中海の東の突き当たり、北と東はヨルダン、南にイスラエル。彼自身がどのような宗教的立場にいるのかは不明だが、宗教というものに対し、我々日本人とは比べ物にならない感性をもっているだろう事は想像に難くない。少なくとも現代日本人の大多数のように無邪気な宗教観ではなかろう。逆に言えば、この手の本を純粋にエンターテインメントとして楽しむことに関し、日本人は最も長けているのかもしれない。

 さて、上下2巻からなるこの小説、考古学者、テンプル騎士団、ヴァチカン・・・映画にもなった大ヒット小説『ダ・ヴィンチ・コード』の二番煎じと思われそうなのだが、実は1996年に映画の脚本として完成していたものを小説として書き直したものだという。物語はニューヨークから始まり、トルコ、ギリシア、そして700年前の世界へと読者をいざなう。シングルマザーの美しい考古学者と腕利きのFBI捜査官、ヴァチカンの特使と狂信的な歴史学者。全く異なるベクトルが激しく交錯し命がけの火花を散らすミステリー、日本人の一人としてシッカリ楽しませてもらった。

テンプル騎士団の古文書 〈上〉 (ハヤカワ文庫 NV ク 20-1)

テンプル騎士団の古文書 〈下〉 (ハヤカワ文庫 NV ク 20-2)
作者: レイモンド・クーリー
メーカー/出版社: 早川書房
ジャンル: 和書