『オセロー』

 『オセロー』を読んだ。作者はウィリアム・シェイクスピア、言わずと知れた世界の天才、イギリスの劇作家だ。彼が残した戯曲は400年たった今でも人々の心に響くそうだが、恥ずかしながら今まで彼の作品を読んだ事が無かったし、戯曲を演劇ではなく本で全部読んだというのも多分初めての事だ。

 一般的に小説の作者は登場人物のキャラクターを読者に正しくイメージさせるために、言葉を尽くして説明をする。だから、ある人物が登場して、数ページ読むころには読者の頭の中にその人のイメージが出来上がる。作者がそう仕向けるからだ。一方、戯曲の作者にはその必要がない。なぜなら舞台の上では台本を最後まで読んだ役者達が、その人物を適切に表現してくれるからだ。

 不慣れも手伝い、読み始めは結構辛かった。登場人物のキャラクターが定まらないのだ。しかし、しばらく読み進んでキャラクターがイメージできるようになると、非常にテンポ良く読むことができる。目の前で会話がなされている、その場に居合わせ一部始終を目の当りにしているような気持ちになる。小説よりむしろ読みやすいくらいで、一気に最後まで読み終えた。戯曲ならどれでもそうだというわけではないだろう。シェイクスピアの天才たる所以にちがいない。

 さてこの『オセロー』、巻末の解説によると、この戯曲の原作者はシェイクスピアではない。ジラルディ・チンティオという人が、シェイクスピアが生まれた頃に書いた「百話集」中の小品らしい。シェイクスピアは基本的な筋はそのままにしながら、原作とは少し違ったメッセージを伝えているという。オセローというのは人の名前。ヴェニスの軍人で、モーリタニア出身の黒人だ。その妻デズデモーナは白人の美女。黒と白、「オセロゲーム」の由来だ。物語はオセローの副官キャシオーとその部下イアーゴ、イアーゴの妻エミリア等の間で繰り広げられる。愛と憎、正義と悪、忠節と裏切りが目まぐるしく交錯するさまは、まさにオセロゲームのようだ。

 古典中の古典を読んでおかなきゃ、そんな気持ちで手に取ったが、読みやすく読み応えがある。初心者にもシェイクスピアを味わう事ができる、そんな作品だった。

オセロー (白水Uブックス (27))
作者: ウィリアム・シェイクスピア
メーカー/出版社: 白水社
ジャンル: 和書