銭湯

 25年ほど前のこと。東京での一人暮らし、家賃1万2,000円の三畳間に風呂などなかった。銭湯通いが日課で、部屋に風呂のある"ワンルームマンション"は憧れだった・・・・。

 ガス給湯器が壊れた。朝、管理人さんに電話して、点検修理を依頼しておいたら10時過ぎに携帯電話が鳴った。やはり故障で修理は明日になるそうだ。「ご迷惑をおかけします・・・」おいおい、今夜フロに入れないではないか。明日は大切な取引先が歓迎会を開いてくれるというのにフロにも入らず行くのは気が引ける。かと言って水のシャワーを浴びるのは辛すぎる10月末。「あのー、近所に銭湯なんて無いですよねぇ・・・」恐る恐る尋ねると「ありますョ!」おぉ、ラッキー。それもマンションから歩いて5分程の所に。Google mapで場所を確認し、早めに事務所をあとにする。食事を済ませ、風呂道具一式を持っていざ出発。小雨降る中、傘をさして歩いていくと見えてきました「ゆ」の暖簾。番台で410円払って入場すると広々とした脱衣場が待っていた。おぉ、この感じ、いかにも銭湯。25年ぶりの銭湯は懐かしさもひとしおだ。

 夜の9時というと、ピークは過ぎた頃なのだろうか、客はまばらだ。サウナで汗を流し、広い湯船に身を浸すと「極楽極楽・・・・」って気持ちになる。1時間ほどかけてゆっくりと湯を楽しみ、火照った体をさましながら久しぶりのTV鑑賞。ロンドンで活躍するバレリーナ吉田都さんの引退公演のドキュメンタリー番組をやっていた。そうか、引退しちゃったんだ・・・と感慨モードに入ったりして。

 風呂上りのコーヒー牛乳をぐっと我慢し家路を急ぎ、ビールでのどを潤すと本日2度目の「極楽極楽」。予期せぬアクシデントも結果オーライ。富士山の壁画はなかったけれど、サウナと独占広々湯船を堪能できた。まさに「災い転じて福となす」、楽しい一日になった。