『グラン・トリノ』


 クリント・イーストウッド監督・主演、2008年のアメリカ映画。ポーランドアメリカ人のコワルスキー(クリント・イーストウッド)はいわゆる頑固ジジイだ。妻には先立たれ、独立した2人の息子からも「今も'50年代だと思ってる」と敬遠されている。庭を丁寧に手入れし、星条旗を掲げる。教会にも行かず、人付き合いも少ない。ガレージにある1972年式のフォード・グラン・トリノ朝鮮戦争で与えられた勲章が孤独な老人の誇りだった。

 コワルスキー家の隣にはアジア人の一家が住んでいる。老人は彼らの事を「米食い虫」と毛嫌いしていたが、ある事件をきっかけに隣人としての付き合いが始まった。この家の娘スーは頭の回転が早く弁が立つが、弟のタオはのろまで気が弱い。そんな所を同じアジア人のチンピラ達に付け込まれ、嫌がらせを受けていた。老人はタオを助けるのだが、逆に恨みを買うことになる。事態は良くない方向へとエスカレート、閑静な住宅街にマシンガンの銃声が響く。自らの責任で決着をつけるため、老人はついに立ち上がる・・・・。淡々とした前半、どこか心温まる中盤、息詰まる後半、そして静かなエンディング。クリント・イーストウッドの圧倒的な存在感に引き込まれた。

 コワルスキーは50年間フォード車を作ったが、彼の息子は日本車の販売員でトヨタ・ランドクルーザーに乗っている。タオにからむアジア人のチンピラ達が乗るのはホンダのシビックだ。近隣に住む白人はコワルスキーだけで、病院の先生もアジア人。細かな設定が老人の孤独をリアルにしているが、ひょっとしたらこのあたりに共感を覚える白人の老人がアメリカには多かったりするのだろうか?

 アンチ・エイジングという言葉に象徴されるように、現代人の老いに対する恐れはとても大きい。「20代の頃の自分」にしがみ付く姿に浅ましさを感じたりもするが、まぁ、誰だって老いることはイヤだ。しかしクリント・イーストウッドを見ていて、年をとることも悪くないなぁと思った。頬のシワが格好よいし、しわがれた声が渋い、ゆっくりした所作には余裕が感じられる。プロ野球選手、学校の先生、映画スター・・・・子供の頃は憧れの大人が沢山いた。コワルスキーは大人になって初めて出会った「あこがれの老人」だ。人の言葉に耳を貸さず、自分の生き方を決して変えない。偏屈で頑固で一本筋の通ったジジイにぜひともなりたい。

グラン・トリノ [DVD]

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