『半落ち』


 2004年公開の映画『半落ち』を観た。横山秀夫のベストセラー小説を寺尾聡の主演で映画化したものだ。アルツハイマーの妻啓子(原田美枝子)の首を絞めて殺したと自首してきた梶聡一郎(寺尾聡)は警察官だった。梶は犯行を認めているのだが、殺害から自首までの二日間については硬く口を閉ざして語らない。完全に自白していない=半分しか落ちていないから「半落ち」という警察用語がタイトルの由来らしい。空白の二日間の謎を解くミステリーでもあり、人間の命と尊厳を問う社会派ドラマでもある。

 この映画、原作が直木賞受賞を逃がしたことをめぐり色々あったようだし、ミステリーとしては謎が浅すぎとの批判もある。社会派ドラマとしては警察、検察の馴れ合いにを糾弾したいのか、当事者の心と比べると悲しいくらい軽いマスコミのバカっぷりを描きたいのか、介護や痴呆、医療の問題を取り上げたかったのか、散漫な印象を与える。

 一方、被害者啓子の姉(樹木希林)が法廷で証言するシーン、話すうちにグダグダになってしまう様子、鬼気迫る熱演はスゴイ。そして何よりこの映画、自分がどうなろうと大切な何かを守るため、心に決めたことを最後までつらぬき通す男の姿を見事に描いている、この一点で二重丸。画面の中の寺尾聡の演技、全てを諦めきったかのように見える梶の瞳の奥から「必ず守る!」という秘めたる意志が伝わってきた。この秘めたる意志をいち早く感じていたのが志木刑事(柴田恭兵)だろう。ラスト近くで志木刑事が敬礼する姿には目頭が熱くなってしまった。久しぶりに「男子たるものかくありたし」と思わせる映画だった。

半落ち [DVD]

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