『カッコーの巣の上で』


 年下の人間に何か命令をしたとき、「どうしてですか?」と真顔で問われて目が点になることがある。複雑な事情がある中で選んだ結論とかならわかる、いくらでも説明しよう。困るのは「えっ?普通こうでしょう・・・」というようなシンプルな事の場合。ため息まじりに「君ねぇ・・・」とゼロから話をするか頭ごなしに問答無用!と出るかだ。「普通こうでしょう・・・」というようなシンプルな事は「常識」と言い換えてもよい。自分が「常識」と信じているモノが通用しないとき、人は困惑しながら解きほぐすか、力ずくに出るかの選択を迫られる。さもなくば諦めるしかない。

 『カッコーの巣の上で』は1975年アメリカの映画。タイトルにある「カッコーの巣」は「精神病院」のこと。「常識」の通用しないところの一つに「カッコーの巣」すなわち精神病院がある。精神病院へ送られてきた主人公のマクマーフィは元来短気で破天荒な性格、いわゆる常識人ではないのだが決して精神を病んでいるわけではない。刑務所から逃れるため精神病を装って精神病院へ移されてきたのだ。「常識」の外にいるカッコーの巣の住人達と、「常識」の内にいる婦長や看守達。この二者のちょうど中間に位置するのがニセ患者のマクマーフィなのだろう。「常識」の内と外、シンプルな図式であったカッコーの巣がマクマーフィの登場によってよって大騒ぎになる・・・。

 冒頭の話ではないが、自分にとって気持ちの良い「常識」が揺さぶられる。観ている者は自分の立ち位置がぐらついていくのを感じながらも、画面から目を離せない。「常識」とは何なのか、「常識」が通用しないとき、人はどうなってしまうのか。ジャック・ニコルソンの「怪演」が光る、ズシリと見応えのある一本だ。

カッコーの巣の上で [DVD]

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