『12人の怒れる男』


 1957年のアメリカ映画。父親をナイフで殺したという少年の裁判で、12人の陪審員が激論の末に全員一致の結論を出すまでのお話。出した結論が有罪ならば容疑者少年は電気椅子に座ることになる。場面は冒頭とエンディングの数分以外すべて陪審員にあてがわれた一室。その部屋は外から鍵をかけられ、陪審員達は外界から隔絶される。結論が出るまで部屋から出られない、そんな陪審員たちに重くのしかかる責任の重みと閉塞感、イライラが観ている者にも伝わってくる。

 この映画の見どころは何といっても陪審員同士のスリリングな言葉のやり取り。スリリングといっても「手に汗握るドキドキ」というのとは少しちがう。「どうなってしまうか心配で、ほんの一瞬も目が離せない」といった感じか。緊張感で息が詰まる。言葉と言葉がぶつかり、各人の表情が目まぐるしく変わる。

 それにしても面白かったのは見事なキャラクター設定だ。お調子者、インテリ風、頑固な老人、早く帰ることしか考えていないヤツ、気は優しくて力持ち、過激なオヤジ・・・。夏の暑い午後、エアコンもない一つの部屋に押しこめられた男ばかり12人。疲れと精神的圧迫の中で人間の本性が見えてくる。人が人を裁くことの是非を問う以前の問題もある。自分勝手、いいかげん、早合点、そして偏見。各人は人を裁く前に自分の中にあるこれらの問題と対決しなければならない。

 この映画から50年以上たったこの夏、日本でも裁判員制度が始まった。この映画が他人事ではなくなったことをかみしめたい。