カバンの中身

 子供の頃、大人の持っているカバンの中にはスゴイ物がたくさん入っているのだと思っていた。TVで見る大人(=探偵やスパイ)のカバンの中にはピストルや無線機や超小型のカメラが入ってた。秘密の暗号を解読する機械や毒を中和する注射器が入っていたこともあった。その一方、悪いヤツのカバンからは大金や麻薬が出てきた。いつの間にか大人になり、会社勤めをしている自分のカバンにはこれらのモノが当然ながら一つも入っていない。

 もしものためにいろいろなモノをカバンに入れて持ち歩いている人がいる。ライト、筆記具、薬にいくらかのお金・・・。備えあれば憂いなしというわけだ。自分はというと、空模様が心配なとき折りたたみ傘を入れるが、カバンは極力軽い方が良いと思っているので、そのまま入れっぱなしにはしない。もしもの時なんてのはめったに来ないし、多くの場合はコンビニやスーパーで事足りるはず、大草原やジャングルに暮しているわけじゃないのだ。それより一週間に一度も使われないモノをいくつもカバンに入れて、自宅と事務所の間を毎日ただただ運搬するなんてことは絶対にしたくないと思うのだ。

 この話には裏がある。本当は大好きなのだ、カバンの中にあれこれ入れておく事が。イメージは子供の頃TVでみた大人のカバン。「え、お前そんなモノ持ち歩いてるのか」「まぁな、備えあれば憂いなしだよ」「ありがとう、おかげで助かった」こんな場面を思い描く。実際、通勤カバンにあれこれ入れて持ち歩いていた頃もあった。ティッシュや折りたたみ傘は当然、頭痛・腹痛・虫刺され薬、救急ばんそうこう、筆記具、クリップ、輪ゴム、テープ、安全ピン、ホッチキス、ソーイングセット、ペンライト、菓子、小銭・・・。カバンの中でバラバラにならぬよう用意した巾着袋の中に一つずつ詰めていくのはとても楽しい。これで何が起きても大丈夫って気持ちになる・・・・。

 数年後新しいカバンに買い換えた時、小さな巾着袋に気がついた。「あ、コレって・・・・」その存在すら忘れていたのだが、この中にいろいろ楽しく詰め込んだことを思い出した。ついでに出張先であわててコンビニにホッチキスを買いに走った事も思い出した。あの時このカバンもってたんだよな・・・。それから考え方を180度変えたのでありました。