『日本人としてこれだけは学んでおきたい政治の授業』


 著者の屋山太郎は1932年生まれの評論家で元時事通信社の記者。記者時代にはフランスやスイスに特派員として駐在していたそうだ。この本は2011年8月、松下政経塾で開催された「歴史観・国家観養成講座」という講座の講義録。論旨が明確で、基本的に話し言葉で書かれているので分かりやすい。この人の本を読むのは初めてだったが、なかなか面白く読むことができた。

 この本の第一章で屋山太郎は「過去を知らない政治家に未来は語れない」「日本の政治家なのに自国の歴史を知らないし、学ぼうとしないので、外交でも内政でも芯が通らない」と語る。もっともなことだと思った。「政治の授業」である本書では、「永田町の政局より大切なこと」「民主党は何を間違えたのか」「公務員制度改革をあきらめるな」など全部で5つの講義が語られているが、歴史に照らし合わせて現代を見る立場が貫かれている。戦後の歴史もあれば、ここ数年の法案審議の過程もある。古くは聖徳太子の政治まで引き合いに出すといった具合だ。今現在の政治を目の前に見えていることだけから論じるのとは違い、そこまでの過程や背景や歴史と照らし合わせて主張する言葉には重みがある。

 学生時代、自分は歴史の授業があまり好きではなかった。縄文・弥生時代はいわゆる古代史ロマン的で楽しかったが、奈良・平安時代を経て鎌倉・室町時代あたりになると次第につまらなくなっていった。このつまらなさは現代史で頂点に達した。棒読みの丸暗記、試験が終わると全て忘却の彼方へ消えていった。歴史の積み重ねが現代の自分達の価値観や考え方、習慣や生活の全てにつながっている。日本人の国民性やメンタリティーは同じ歴史を共有し、同じ環境・境遇の中で代々培われてきたものなのだから。そう考えると歴史を知ることは自分を知ること、そこから学べることは膨大であったはずなのだ。惜しいことをしたものだ。

 屋山太郎がこの本で主張していたことは数多い。外国人参政権は領土問題につながる。政治家は誰に気兼ねすることなく靖国神社参拝をできる。天下り根絶のためにも官僚政治との決別が必要。原発は国家産業のベース電源。親米、反中、日英同盟を続けていれば良かったはず、などなど。個々の主張には賛同できたりできなかったりだが、歴史に照らし合わせる論調には説得力があった。物事を見る際のぶれない軸を持つためにも、歴史を学ぶことから得られるものは多いと思った。

日本人としてこれだけは学んでおきたい政治の授業
作者: 屋山太郎
メーカー/出版社: PHP研究所
発売日: 2011/10/27
ジャンル: 和書